[書評]無戸籍の日本人

無戸籍」この単語を見て僕が思いつくのは中国だ。
長年にわたって続けられた一人っ子政策のおかげで、中国の夫婦で産まれた2人目以降の子供は無戸籍になりやすい・・・そんなことを知っているからだ。

でも、この本ではそのタイトル通り戸籍の無い日本人について書いてあるという。21世紀も過ぎて久しい日本に?ちょっと信じがたい話だ。だからこそ読んでみたくなったのだ!

え!無戸籍者が日本に推定1万人!!!

無戸籍者の正確な人数は明確にわからない。当然だ。戸籍が無いんだから。でも、本書によると、直近20年を考えても1万人は積み上がっているのではないかと推測されている。

中には無戸籍から戸籍を取ることに成功した人もいるようだけど、ハードルは高くて難しいらしい。そんな現実の中で、無戸籍者のために活動しているのが本書の筆者である井戸まさえ氏だ。

彼女自身、自分の子供が一時的にでも無戸籍になったことがある経験から今の活動を始めたらしい。

人が無戸籍になる原因って何よ?

普通、人が生まれたら役所に出生届けをだして戸籍を登録する。
僕ももうすぐで父親になる身分だ。こんなことは既に勉強済みである。

だけど、世の中には出生届を出さない・出せない人がいるらしい。
本書では、5つのケースを挙げている。

①「民法772条」の嫡出推定、いわゆる「離婚後300日問題」などの法律が壁になっているケース

②親の住居が定まらない、貧困などの事情により、出産しても出生届を出すことにまで意識が至らないか、意図的に登録さけるケース

③親が「戸籍制度そのものに反対」で、出生届提出を拒むケース

④もともと戸籍があった人が、何らかの事情でそれを使えず、無戸籍者となっているケース

⑤天皇および皇族のケース

筆者の井戸まさえ氏が実際に経験し、彼女が主に無戸籍問題で手助けをしている人たちが①のケースに当てはまる。

これは、「離婚して300日以内に生まれた子供は、元夫の子供として登録しないといけない」民法772条が壁になっている。

例えば夫のDVから命からがら離婚して、他の男とすぐさま結婚したとする。結婚した時には既に新夫の子供を妊娠していて、元夫との離婚から300日以内に子供を出産した場合は、民法上は元夫の子供とされるのだ。

今ではDNA鑑定でほぼ100%父親を確定できるにもかかわらずだ。

新しい夫との子供として登録するには元夫の協力が必要になるが、DVで逃げてきたのならそれは簡単な話じゃない。今の住所や不貞までばれてしまう。

全夫と交渉することのリスク、裁判や調停のハードルの高さ・・・・・。
これらが当事者にとって大きな重圧となってのしかかる。葛藤・苦しみの果てに彼らは無戸籍を選ぶ。

本書では、そういった無戸籍の人たちが戸籍を取得するために、筆者がどのようなサポートをしてきたか、そして、どうやって行政に訴えてきたかをつづったものである。

無戸籍者の人生ってどんなものなの?

無戸籍の場合、当たり前だけど行政のサービスが受けられない。
具体的には、こんなことが出来ないのだ。

・義務教育を受けられない。
・身分証明書がない。
・しっかりとした仕事に就けない。
・銀行口座が持てない。
・携帯電話が持てない。
・免許証が取れない。

どうだろうか?僕らにとって普通の事すらできずに暮らさないといけない。
ひっそりと、隠れるように生きていかないといけないのだ。

誰が悪いんだろうか?

民法の解釈は、少しずつ改善してきてはいる

本書によると、明治時代にできたカビの生えた民法772条の解釈は少しずつ現代の条件を反映しつつあるようだ。

だけどこういった活動に反対の議員もいるらしい。
無戸籍の人間は選挙権すら行使できないから、票にも結び付かない、お金にもならない。それに加えて、「無戸籍は親の責任だから仕方がない」といった考えもあるそうで・・・。

確かに親の不貞で無戸籍になることが多いのなら、親が悪い一面は否定できない。だけど子供に罪はない。

一方で僕の頭の中に、この間読んだ「言ってはいけない残酷すぎる真実」が思い出される。「ダメな親の子供はダメになる確率が高い。」

これは因果なのだろうか?

気になったらこの動画を見て欲しい

最後に、2015年2月に放送されたNHKのクローズアップで特集された無戸籍者の動画を紹介する。

この動画に興味を持ったら、無戸籍の日本人を読んでみられることをお勧めする。

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